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  分子生物学の進歩により、網膜芽細胞腫の遺伝子は細かな構造までわかっています。網膜芽細胞腫の腫瘍細胞を調べると、2本ある一三番染色体の長腕一四の部位の異常が必ず認められます。これはがん制御遺伝子で、この部位に突然変異や染色体の異常で障害がおこると、網膜芽細胞腫が起こりやすくなります。親の精子か卵子にこの異常があると、これから発生した胎児の体のすべての細胞の一三番染色体の1本にこの異常が起こります。網膜が作られる過程で、他の1本の染色体にもあるその遺伝子に異常が生じると、網膜芽細胞腫が発生すると考えられています。

  両眼性の症例全てと片眼性の症例の一部(10〜15%)から優性遺伝します。片眼性は殆どが網膜の1ヶ所だけに突然変異が両方の一三番染色体に生じており、精子や卵子を作る細胞に異常が無いので遺伝しないことが多いのです。

  次に生まれてくる子どもや患児の子どもにどの程度の確立で網膜芽細胞腫が発生するかについては、松永により計算された分かりやすい図があるので参考にしてください。

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  特に高い確率で網膜芽細胞腫を発症する子どもが生まれる可能性がある場合に、子どもを作るか否かは最終的には夫婦の人生観によって決められる問題です。治療に携わる医師の立場から提供できる情報としては、妊娠中は胎児の超音波検査を行う時、胎児の眼球の内部の状態も知ることができるので、大きな腫瘍があるか否かは出産前に分かります。出産後はすぐにでも眼底検査が出来るので、1ミリ以下の小さい腫瘍も見付けられます。そのため眼球保存療法の成功する確率は非常に高くなります。しかしまれに、胎内でかなり大きくなっている例外的な場合も報告されています。

  妊娠初期に羊水や絨毛細胞の採取により遺伝子の異常を分子生物的に判定することも症例によっては可能です。しかし網膜芽細胞腫の遺伝子は非常に大きくて、しかも遺伝性の場合の突然変異は点突然変異と呼ばれる分子1個の小さな異常が多く、すべての場合にその異常を検出できるまで現在の科学は進歩していないのが現状です。

  この遺伝子の異常が、一三番染色体のかなり大きな部分的欠損の1つとして起きている場合には、網膜芽細胞腫が発症するばかりでなく、他の遺伝子の異常もともなうため、精神身体の発達異常が起きます。場合によってはかなり重症で成人しても十分歩行できないような場合もあり、染色体検査をしておく必要があります。この染色体の異常は父親の精子のできるときに起こっていることが殆どです。

  時に両親が子どもに網膜芽細胞腫が出た原因について口論し、母親の責任であるかのように決め付ける父親がいます。しかし実際には、父親の精子に原因があることが多いのです。離婚などしないで、お二人の愛の結晶を暖かく育んでいきたいものです。

-説明文より-


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