眼球摘出手術

  眼球摘出は全身麻酔下で行われ30分以内に終わります。視神経を切断した部分に腫瘍の浸潤が無いように、なるべく長く切り取ることが望ましいのですが、脳脊髄液が流れている隋膜下腔に浸潤が達している場合は、いくら長く視神経を切っても、すでに脳脊髄液に腫瘍細胞が流されて脳に達している可能性があり、予防的な治療が必要です。

  眼球摘出後にプラスチックなどでできた義眼台を入れる場合と入れない場合があり、術者により見解が異なります。再発の可能性が高い場合は入れないのが普通です。手術後は眼瞼腫脹や皮下の出血斑がでることがありますが、1〜2週間で消えます。手術直後に有窓義眼と呼ばれる、中央に5mmほどの穴があけてあり浸出液を排出できるようになっている透明なプラスチックの義眼を入れておき、出血予防のための圧迫と結膜嚢の成形を助けます。

  十分に注意して手術を行っても、上眼瞼の陥凹や眼瞼内反を生ずることがあります。また義眼台の脱出、眼窩骨の発育障害、瘢痕収縮による結膜嚢の狡少化などもあり、特に摘出後に再発予防のための放射線照射を受けると起こりやすいようです。

  術後1〜2週間で角膜の書いてある仮義眼を装用して眼ガーゼを外せます。摘出した眼球の病理組織検査で腫瘍細胞の眼球外浸潤が認められたら、眼窩の放射線照射か抗がん剤による予防的化学療法が行われます。眼窩内再発は術後1〜2年以内に起こり、症状として義眼が後ろから腫瘍で押されるため、入りにくくなることが多いようです。両眼性の場合には、術後かなり経過してから別の悪性腫瘍が眼窩やそれ以外の部位に出てくることがありますので注意が必要です。

  義眼は毎日1回は取り出して、結膜嚢内を指など入れて水で綺麗に洗い、清潔にしておくことが必要です。感染を起こすと眼脂が多くなるからです。あまり眼脂が多いときは、抗生剤の眼軟膏や点眼液を使用する必要があります。

-説明文より-

 

眼球保存療法

  眼球保存療法は、一般的には視機能が残っていて、視神経乳頭に腫瘍が無く、眼球保存療法を行っても転移などを発生する危険が無い場合に行われます。治療法としては、X線照射(30〜50Gy)光凝固冷凍凝固、ヘマトポルフィリンを使用した光化学療法、放射線アイソトープ(コバルト60など)の強膜縫着、抗がん剤による化学療法などがあります。腫瘍の大きさ、数、状態、位置により使用する方法が選択されます。各治療法にはそれぞれ弱点があり、視機能に障害をできるだけ与えずに治癒させるためです。

網膜芽細胞腫の眼球保存療法の治療手段と弱点

放射線療法 再照射により失明率が高い
白内障の発生
光凝固、冷凍凝固、HPD光化学療法 小腫瘍のみ有効
局所的な視機能障害の発生
硝子体播種に無効
化学療法 有効率が低い
再発率が高い

  放射線療法はもっとも強力な治療方法ですが、これ単独では38%の場合再発して、他の治療法を使用する必要が生じます。再発した腫瘍が直径5mm程度の小さなものの場合は、光凝固や冷凍凝固、光化学療法などで治療できますが、大きい場合には、アイソトープの強膜縫着や抗がん剤の眼動脈注入と眼球温熱療法の併用による眼球温熱化学療法などが必要です。

  放射線照射を2回繰り返すと、放射線網膜症を発生させ、硝子体出血や緑内障をおこし、失明させることがほとんどです。このため初めから放射線照射と眼球を43度に1時間加熱する眼球温熱療法を併用する治療も試みられています。この方法により、今まで眼球摘出されてきた片眼性網膜芽細胞腫の眼球保存がかなりできるようになりました。しかし視機能に障害を残すこともあり、安全性の向上のための研究が進められています。

  眼球保存療法の治療効果の判定は、眼底検査で行います。腫瘍が消失することにより治癒となりますが、放射線治療では石灰化して石のように硬くなった部分や軟らかで半透明な魚肉状の腫瘤が一生のこることがあります。定期的な眼底検査で増大が認められなければ、不活化したと判定され、治療を追加する必要はありません。

-説明文より-

 

放射線外照射療法(ほうしゃせんがいしょうしゃりょうほう)

  「網膜芽細胞腫」は放射線に対する感受性が高い(放射線によって破壊されやすい)ので、放射線外照射療法は治療効果が期待でき、以前からもっとも多く行われてきている方法です。両眼性で視力を保持しようとするときや、片眼性であまり進行していないときに広く行われているようです。

  国立がんセンター中央病院では、麻酔を使わず、患児を動けないように固定してから1回1分以内で放射線を照射しています。最高でも5週間に25回までとされ、20回以内ですむケースもあるようです。多くは通院で行います。

  知られている副作用を列挙すると、放射線照射部分の骨の発育が悪くなる、白内障の発生、脳下垂体への影響により身長の伸びが悪くなる、照射の範囲内に別の悪性腫瘍を誘発する可能性がある、放射線網膜症や眼底出血などです。

-すくすくより-

 

化学療法(かがくりょうほう)

  これには2つの方法があります。1つはバルーンカテーテルという特殊な官を使用して、眼球に流れる眼動脈に抗がん剤を少量注入する方法です。これを眼動注(がんどうちゅう)といいます。もう1つは、硝子体に直接注射針で抗がん剤を少量注入する方法です。これを硝子体注入(しょうしたいちゅうにゅう)といいます。前者は、放射線照射後の残存腫瘍や大きな再発腫瘍に、後者は硝子体に散らばってしまった腫瘍(硝子体播種(しょうしたいはしゅ))に行われているようです。両者ともに全身麻酔下で行います。完全に腫瘍を死滅させるために、3回1セットといわれています。

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眼球温熱療法(がんきゅうおんねつりょうほう)

  全身麻酔下で特殊な器具を使い、眼球を約43度に温める方法です。眼球の腫瘍のある部分以外のダメージを避けるために冷却水も循環させているようです。

  この療法は単独で行うのではなく、放射線照射中に週に1度の間隔で温熱療法を2、3回行う眼球温熱・放射線外照射療法や、眼動注や硝子体注入をするとき同時に温熱療法も行う眼球温熱化学療法があり、他の治療法と併用して行われています。

  温熱療法を併用することで、放射線の効果を高め、照射後の再発を抑えたり、抗がん剤の効果を高め、その後の再発を抑える効果が期待できるようです。

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冷凍凝固(れいとうぎょうこ)

  全身麻酔下で腫瘍のある部分の眼球壁にマイナス70度前後に冷却した金属をあてて腫瘍を凍らせて殺す方法です。この方法は、3ミリ以下の小さい腫瘍が網膜の中心ではなく周辺部にある場合に有効とされています。

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光凝固(ひかりぎょうこ)

  全身麻酔下でレーザーを腫瘍の周囲に照射して、腫瘍に栄養を送っている血管をふさぎ、間接的に腫瘍を殺す方法です。

  5ミリ以下の小さな腫瘍が黄斑部やそれに接する部分以外にある場合適応とされています。

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HPD光化学療法(エイチ・ピー・ディひかりかがくりょうほう)

  前もって、光に対する感受性を高める薬(ヘマトポルフィリン)を静脈注射しておき、全身麻酔下でレーザー照射を行う方法です。レーザー光の熱作用ではなく、光化学作用で腫瘍を殺そうとするものです。

  小さい腫瘍にのみ適応とされ、治療後もまだ光に対する感受性が高まった状態が1ヶ月程度続くため、強い光、特に直射日光は避けなければなりません。

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コバルト60強膜縫着療法(こばるとろくじゅう きょうまくほうちゃくりょうほう)

  コバルト60という放射線を常に出している金属をプラチナで覆い、それを腫瘍のあるすぐ後ろの強膜(きょうまく)に数日間縫い付けたままにしておき、局所的に強力な放射線治療を行う方法です。

  以前は15ミリ以下の孤立性の腫瘍や放射線照射後の再発した腫瘍、特に硝子体播種(しょうしたいはしゅ)がはじまっている場合などにこの方法が適用され行われていたようですが、現在は効果が同等に期待でき、また被爆がさらに少ない放射性金属ルテニュームを使用し、このコバルト60による治療は行われていません。

  コバルト60(他の放射性金属を使用した場合も同じと思われますが)を縫い付けている数日間は、子どもは隔離され、母親や世話をする家族は鉛のついたてで被爆から身を守り、排泄や食事の世話など限られた時間しか入室できません。また、次の赤ちゃんをと考えている場合は、なるべく被爆を避けなければならないので、他の方(おばあちゃんなど)に世話役をお願いすることも必要になるようです。

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眼球摘出手術および保存療法を受けるポイント

摘出手術を受けるにあたって

眼球摘出手術をすれば、詳しい病理検査をすることができるので、周辺への転移があるかどうか、より確実にすることができる。もし転移があればそれを早く発見し治療することができる。
転移が無ければ治療の必要も無く、診察の間隔も長いので、病気を知る以前の生活にいち早く戻ることができる。
保存治療(特に放射線外照射)をせず、転移も無ければ、多くは義眼が綺麗に入り、これを成長に合わせて変えて行く事で目立つという状態をまぬがれる場合が多い。

保存療法を受けるにあたって

放射線や抗がん剤の副作用を長期的に考慮しなければならない。
放射線外照射や温熱治療を終了しても腫瘍が残存したり、一旦は死滅しても数ヶ月後また再発することがある→治療が長期にわたり、全身麻酔をかける回数が重なる→子どもの身体への負担を考慮しなければならない。
全身麻酔下の治療は体調の良い時でなければできないので、常に風邪をひかせないようにする、などといったように治療や診察の予定を意識した生活をしなければならない。
治療の回数が重なれば、視力はあまり期待できない。また、たとえ自分の目が残っても眼球が小さくなったり、斜視が起こったり、白内障などの治療の影響によって外見的に目立たないという状態が望めなくなることが多い。種々の理由により、保存治療が無理になり、義眼を入れた場合にも、瞼が閉じなかったり、瞬きができなかったりすることがある。
再発や転移の起こる心配を長く抱えなければならない。

-すくすくより-