国立がんセンター待合室にて配布されていたプリントです。なお掲載に関してすくすくには許可を頂いておりませんので転載等はご遠慮ください。金子先生には口頭で伝えたことがありますが、覚えていらっしゃらないでしょう。(^^;


『すくすく』金子先生との勉強会報告


1995年10月29日13時より国立がんセンター管理棟セミナールームにて、金子先生との初めての勉強会が実現しました。出席者は約40名で金子先生と看護婦の矢島さんにもご出席頂きました。勉強会は当初9月17日に予定されていましたが、台風で中止されたため、その前日に奈良と北海道から上京されていた方々の交通費の足しにと、今回の勉強会の出席者からカンパを集めました。

以前アンケートに寄せられた質問については、金子先生より回答をまとめていただき、当日そのプリントが配布されました。勉強会は、まず金子先生よりスライドを使っての病気全般に関する説明があり、その後、出席者からの質問に金子先生からお答え頂くという形式で進められました。スライドでは実際の症例や治療法、治療後の変化など写真を見ながら、病気の基礎的な知識が整理されました。質疑応答では出席者から沢山の質問をさせて頂き、その場でお答え頂くという貴重な機会となりました。以下、内容について簡単ですが報告させて頂きます。


《スライドによる説明》

腫瘍の場所と形状、症状の例、治療後の変化、進行がんや転移の例、いろいろな治療法とその効果についてスライド写真を見ながらの説明を頂きました。また遺伝と染色体、治療の歴史、進行度と保存率/生存率などについての資料を見せて頂きました。

現在、全国で年間80人くらい発病し、内10人くらい亡くなっていること、患者の数が少ないため、専門に研究する医師や設備を持った病院が殆ど無く、保存治療に至っては国立がんセンター中央病院が唯一であるということです。
病気の原因は13番目の染色体の欠損であるということですが、遺伝の可能性が高い家庭でも早期発見のための眼底検査がまだ徹底されていないこと、可能性がある場合は生後1ヶ月以内に眼底検査を受けたほうが良いことなども話されました。

1990年の調査では発病後15年を経過しての生存率は片眼性93%、両眼性89.5%となっています。T3(網膜の50%以上で眼球内部に現局した腫瘍)の場合の成功率については、放射線療法と温熱療法の併用により大変向上し、1989年には49%であったのが1990年〜92年では93%に向上しているということが報告されました。また腫瘍が摘出された場合の生存率(100%)と保存した場合の生存率(94%)には有為差が認められず、保存療法の有効性が証明されています。

また、両眼性の場合に多い2次がんの発生率と種類、片眼性の場合の2次がんのケースなども示されました。

《Q&A》

主な質問のポイントとしては、治療法について、治療後の経過観察と再発に関することと遺伝に関すること、2次がんとその予防、保存か摘出かを決めるための判断基準は何かということが挙げられます。

観察期間は2年くらい経過しても再発が認められなければ治癒したと考えられること、2次がんについてはこれといった予防や発見法は無いこと、ただし目に関するがんの場合は定期検査で見つけられること、治癒率が高いことなどの答えを頂きました。将来的な治療については、放射線を使わず、薬で治す方法を考えているということですが、まだ研究中であり効果や安全性について、はっきり答えられないと言うことでした。

遺伝については、家計内遺伝率は分かっているが、遺伝子の検査だけでは発病するかどうかは分からず、眼底検査を受けたほうが良いようです。

保存か摘出かの判断に関しては、調査結果にもあるようにT3の場合の生存率が保存でも摘出でも殆ど変わらないことから、特に摘出が必要と判断されるときと親が希望する場合を除いては、保存療法を行っている。摘出すれば安全という間違った見解が広まっているようだが、そうでは無いことを強調され、最終的には親が決めるべきことであるが、そのための情報を与えるように努力するというお答えを頂きました。

《Q&A》(項目別に要約したもの)

☆治療について

放射線照射量はどうやって決めているのか。

腫瘍を治すのに有効で、眼が耐えられる量として50Gyまで。それ以上照射すると失明や後遺症の危険が増す。(放射線照射のみでは40%は再発する)

放射線を使わない治療方法を将来的に考えていきたいとのことだが、がんには有効でも視力には良くないということは無いか。

薬品を使った場合、副作用は無くても高濃度過ぎると視力に害が出ることがある。使い方の問題である。メルファランは骨髄以上の特効薬だが、余り長く使うと害が出る。薬での治療は始まったばかりなので効果はまだ分からない。今のところは放射線が一番確実で筋肉萎縮などの問題も起こらない。

☆治療後の心配、経過観察について
今までのスライドの中で治療後の写真を見ると全体が黒ずんで見えるが...。

特にそんなことは無いはず。白内障だと写りが悪くなることもある。

放射線治療後、石灰化したものはそのまま残るのか、影響は無いか。

そのまま残るが特に影響は無い。

経過観察期間について、どのくらい経てば治癒したと考えられるか。

2年間出てこなければ、治ったと考えられる。

治療の影響でがん以外の病気(血管のつぶれなど)になった場合の治療はどこでどのようにするのか。

あまり可能性は無いが、必要な時は治療してくれる眼科を紹介する。

治療後、視力が問題無くても、その後、治療が原因で視力が落ちることが考えられるか。

放射線網膜症になる可能性はあり、その場合、視力が落ちてきて気付く。治療法はレーザーで焼く。

片眼性で治療後、視力が無くなった場合、視力は戻らないのか。

戻らない。

小さいうちに治療した場合の骨に対する影響と視力に対する影響はどうか。

骨に対する影響は多少大きくなる。視力は関係無い。

☆再発、2次がんについて
再発した子供の割合などの統計はあるか。

T3の場合成功率93%、以前は50%くらい。

2次発がんを防ぐために気をつけることは無いか。

予防法については分かっていない。一般的に言われているがん予防法と同じ。将来的には放射線をかけないで治療したいと考えている。

眼科以外での発がんの可能性と発見のために出来ることは無いか。

いろいろながんがあり、検査法もそれぞれ違う。いずれにしても早い時期に分かり難い。

2次がんは両眼性の場合に多いのか。

多い。片眼性の人は比較的少ない。

再発した場合、他への転移という心配は無いか。

余り無いと思う。この腫瘍は多くの場合、目の中に留まっている、大きければ血液を通じて他の部分に行く場合がある。綺麗に治っている場合でも(前に眼球外に出ていれば)転移がある場合もある。

脳脊髄液の検査で再発が分かるのならやったほうが良いのか。

転移が見付かるのはかなり病気が進んでからであり、体の負担を考えると毎回やる方法とは考えにくい。

CTスキャンと脳脊髄液の検査とどちらが良く分かるか。

CTのほうが有効だが、放射線なのであまり体に良くない。腫瘍が視神経から離れているなら、やる必要は無い。

☆遺伝子異常について

片眼性の場合の遺伝子の異常は、網膜に限定されるのか。

その部分のみに異常があることが多い。

父母の遺伝子の異常は血液検査で分かるのか。

白血球を調べれば分かる。異常が無い人も多い。

片眼性の子供がいた場合、その子供から生まれる子供が発病する可能性は。

5%。その子供の兄弟で発病しなかった子の子供は0.4%。

生まれた時、子供の血液検査をするとかかるかどうか分かるか。

最近大きな病院では血液検査ができるが、陰性でも発病するかどうかは分からない。

13番目の染色体がかなり欠けているが、欠け具合によって、発病率が分かるか。

染色体異常の人のデータが余り無いので、まだ分からない。

☆摘出か保存か、判断基準について

緑内障と出血について、痛い場合は摘出するべきか。

酷く痛い場合、摘出もあるうるが、治療後緑内障も良くなったというケースもある。出血が酷く目の中が良く分からない場合、摘出が安全なこともある。ただし、自然に引いてくる場合もあるので経過を見る。

摘出か保存か、同じ病院なのに小児科の先生とのコンセンサスが取れないのは何故。

同じ科でも意見が違う場合あり。最近は治療実績が上がったので余りそういうことは無いのではないか。

両眼性の場合、片方を摘出すると、あとから出てきた方が勢いを増すというのは本当か。

ありうるが、当センターでは両眼保存でやっているので、あまりそういうケースは無い。

両眼性の場合、保存治療によって出る後遺症について前もって説明すべきでは。

生存率に差が無いのだから保存した方が良いはずだ。保存を押し付けているわけでは無いし、摘出すれば安心というものでも無い。2次がんで亡くなった人は今のところいない。放射線の後遺症については説明済み。

摘出か保存か最終的に決めるのは親としても、親には情報が少ないので先生からリスクの説明が欲しい。

説明する。保存したら生存率が下がるという誤解があるのでは無いか。

☆その他
妊娠中にエコーで腫瘍が見つかっても、お腹の中では治療が出来ないのか。

今のところ出来ない。見つからなかった場合、安心できる。見つかった場合は生まれてから治療する。

写真を撮ると治療をした方の目が赤く光るのは治らないのか。

瘢痕が残っていて写るものなので治らないと思う。瞳孔の反応が悪いということもある。

眼底出血の予防法は?。

何とか予防したいが、今は分からない。

温熱との併用は他の病院では出来ないのか。

出来ない。全身麻酔を使うため、麻酔科の協力が必要。設備が無い。

細胞レベルでは、がん細胞はみな同じなのか。

それぞれ違うものと考えられる。